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ポイントとは?
地元で水揚げされた海の幸や収穫された野菜などを中心に心尽くしの料理を出す、北陸の小さな町の小さなホテルのレストラン。その洋食部門を率いるのが藤井正和シェフである。厨房には程よい緊張感はあるものの、それぞれが伸び伸びと自分の仕事を楽しんでいる。 藤井さんには「等身大」という言葉がよく似合う。フランス料理をベースにしつつも、ジャンルにとらわれず、美味しいと喜んでくれる料理を作ることが一番だと考えるシェフである。 藤井さんが料理人の道を選んだきっかけは、両親に対する想いからだった。藤井さんが小学校3年生のとき、母・千代さんが重い病に罹り長い入院生活を余儀なくされた。闘病生活を送る千代さんをお見舞いに行くたび、病院食を目の前にして箸がすすまない姿をみて、お母さんに少しでも美味しいものを食べさせてあげたいと思い、胸を痛めた。自宅では、千代さんの代わりに父・良路さんが、仕事で疲れているにも関わらず、毎日子供たちのために食事を準備してくれた。楽しみにしていた遠足のとき、いつもより朝早く起きて作ってくれたお弁当の美味しさは、今でも忘れられないという。良路さんへの感謝と千代さんへの想い。それが、藤井さんを料理人の道にすすめたのだった。 料理人になろうと決めたあとも、地元を離れて有名な店に修業に出ることは考えなかったという。藤井さんは生まれ育った土地が好きだったし、北陸には贅沢なほどの食材があることもまた、大きな理由であった。人から教えを請うよりも、自分の想いや感性を磨くことを選んだ。
藤井さんが手がけるレシピは、あきれるほど手間がかかるものばかりだ。通信販売用の商品についても既製のソースや添加物には一切頼らず、すべて厨房で作る。甘えびのグラタンに投入するアメリケーヌソースは、大量の甘えびの頭と殻を根菜や香味野菜と共に炒め、じっくりと時間をかけて煮詰めて完成させる。また、カニグラタンには、地元で水揚げされたセイコガニ(ズワイガニのメス)を使用するのだが、大人の掌ほどの甲羅から中身を取り出したり、割り箸ほどの太さの足から身を集める作業も、数時間かけてすべて手作業で行っている。いずれのグラタンも、旨みがぎゅっと凝縮していて、素材の味がダイレクトに口中に広がる。また、スイーツに使用する食材も同じく、厳選を重ねて採用した個性豊かなもので、口にするとその美味しさに思わず頬がゆるむ。 藤井さんは以前、ドイツで開催されたコンクールで受賞経験がある。「だけど、そんなのには僕は興味がないんですよ」「何が嬉しいかって、美味しいって言ってもらえること。それだけなんです」子供の頃に両親に対して感じた想いを、今はシェフとしてお客さんに向けて発信する。主役は、自分自身でもなく料理でもなく食べる人。藤井さんの料理に共通する温かな空気は、きっとこんな想いが生み出しているに違いない。 〈取材・文 猪口ゆみ〉