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魚の目利きに、すり身の練り方に、一切妥協しない。魚そのものの旨さを凝縮した「原点のじゃこ天」。
<鳥津さんのじゃこ天>
愛媛県八幡浜市
「鳥津蒲鉾店」

鳥津康孝さん
新鮮な鮮魚をふんだんに使った漁師町の味
 じゃこ天は、愛媛県の八幡浜から宇和島にかけての漁師町の郷土食で、前浜で捕れた魚のなかでも比較的小さな雑魚(じゃこ)を骨ごとすり潰して油で揚げた、素朴で食べ飽きない薄い練り物だ。
 じゃこ天は、江戸時代に生まれたとされているが、この辺りは昔から魚種・水揚げ量ともに豊富で、ほかの港の比ではなかったため、鮮度抜群で旨みを蓄えた小魚がふんだんに使われていたことが容易に想像できる。
 しかし現在、じゃこ天という名前は広がりつつあるものの、ほかの地域の練り製品と区別がつきにくいものが多く、当時のように鮮魚をふんだんに使っているじゃこ天の店を探す方が難しいとさえ言われている。しかし、この地にひとり、持って生まれた感性と情熱でたった1枚のじゃこ天と向かい合う職人がいる。鳥津蒲鉾店2代目の鳥津康孝さんだ。
子どもの頃から将来の夢は「蒲鉾屋」
 鳥津さんは、父・良雄さんと母・君子さんの長男として生まれた。背筋をピンと張って歩く職人肌の父は、鳥津さんが生まれる少し前に独立。猫のひたいほどの小さな構えではあったが、父の作る蒲鉾やじゃこ天には人を惹きつける味わいがあり、じゃこ天が出来る時刻を見計らって来店する主婦たちの嬉しそうな顔は、幼かった鳥津さんにとって父を誇らしく思うに十分なものだった。小学校の頃の作文にはすでに、同級生がパイロット、野球選手などと将来の夢を語るなか、大きな文字で「蒲鉾屋!」と書いていた。
父譲りの勘、父の教えを受け継いで
 大学は四国を離れ、大きな都市でいろいろな経験をしたが、それでも鳥津さんは卒業と同時に八幡浜に戻り、父について職人の道を歩み始めた。
「目をつぶって作っても美味しいものができるじゃこを仕入れろ」が口癖の父の目利きは抜群だった。仕入れた魚の捌き方から蒲鉾の練り方、じゃこを混ぜる塩梅ひとつとっても手間を惜しむことなく丹念に仕込み、仕上げていった。
 鳥津さんは幼い頃からの想いと父譲りの勘のよさで、みるみるうちに職人としての実力をつけていった。父のもとで15年、その仕事のすべてを任されるようになった今、鳥津さんのなかに次なる目標が生まれた。
情熱と感性を注ぎ込んだ「原点の味」
 鳥津さんは、無類の魚好きだ。大学の時にほかの土地に住んでみて、八幡浜の魚の美味しさをあらためて実感してからは、いっそうこの地で水揚げされる魚の旨さに自信をもっていた。しかし、今のじゃこ天には保存のきく加工品としての価値ばかりが大きく追及され、じゃこ天本来の美味しさがどこかに置き忘れられているように感じていた。鳥津さんは、魚そのものの旨みが凝縮したじゃこ天、いうなれば原点のじゃこ天を作りたいと思った。まずは、引くことから始めた。うま味調味料など必ずしも必要ないものはすべて排した。魚種を選び練り方をさらに工夫する。周りがあきれるほど熱中し試行錯誤すること1年。でき上がったのが、このじゃこ天だ。
魚の質と鮮度が命、セリは毎朝真剣勝負
 西日本屈指の漁獲高を誇る八幡浜のセリは、早朝6時頃から始まる。ここに水揚げする船の大半が夜中に出港しセリに合わせて帰港するため、鮮度が非常に高いうえに黒潮でもまれた魚の旨みは格別。なかでも主原料となるホタルジャコは地元でハランボと呼ばれ、やたらと小骨が多いもののじゃこ天に使う魚のなかで最も美味とされ、旨みが強い小魚だ。それを毎朝のセリで仕入れる。
 鳥津さんの目利きには一切の妥協がなく、セリに立つ鳥津さんの姿は、隣で見ているだけでも緊張が走るほどだ。八幡浜は、ひとつのトロ箱に対して仲買い人が一度だけ指で値を示す、いわば一発勝負方式。競り上げ方式なら順に高い値をつけていけばよいが、ここでは自分より高い値をつけたものがいたら、その魚はもう手にすることができない。鳥津さんはセリが始まる前に市場を一回りして、その日狙う魚を決め、父譲りの勝負勘でほぼ確実に競り落としていく。
旨みを引き出す「練り」の技
 仕入れた魚は、軽快な鼻歌とともに店に運ばれ、すぐにまな板の上にあがる。鳥津さんは一尾一尾手にとって頭とワタを切り落としながら、小体なホタルジャコが発する香りの微妙な違いや指から伝わってくる身の詰まり具合などでその日の仕入れの出来を確認する。旨いじゃこ天になってくれよ、と念じながらの前処理作業は、鱧の骨切りさながらの軽快な音とともに午前中いっぱい続けられる。
 午後、水洗いされた魚は冷蔵庫で低温熟成させたあと、練り込んですり身にする。なにしろ魚と塩しか使わないため、この練りでいかにして旨みを引き出すか、職人の腕が試されるところだ。鳥津さんはこの作業に入ると練り機の前から片時も離れず、周りの雑音を気持ちの中ですべて遮断し、五感を集中させてすり身に何度も手を伸ばす。その後は成型し、一番搾りの菜種油のなかをゆったりとくぐらせて、やっと完成だ。でき上がったじゃこ天は、魚の旨みがぎゅっと凝縮した、まさに原点のじゃこ天にしてオリジナルの1枚である。
親から子へと贈り伝える味
 このじゃこ天ができ上がるのは、小学生の次男がちょうど帰宅する時間。学校から帰ってまた遊びに出かける息子が、このじゃこ天を美味しそうにつまみ食いする顔を見るのは、鳥津さんの密かな楽しみだ。我が子が喜んで食べるじゃこ天、子供に安心して与えられるものを作ったという満足感は、鳥津さんの父が当時味わっていた気持ちに通じるものなのかもしれない。八幡浜の魚を愛し、父の味を誇りに思い続けてきた鳥津さんのじゃこ天は、凝縮した魚の旨みに満ち溢れている。
自らを「じゃこ天バカ」と呼ぶ鳥津さん。海と家族とじゃこ天を心から愛する三児の父だ。
毎朝市場に必ず足を運ぶことが全ての基本だという。
鮮度抜群のホタルジャコ。鳥津さんの目利きには定評がある。
西日本屈指の水揚げ高を誇る八幡浜漁港。
小さいながらも旨みの強いホタルジャコ。
すり身の中には塩もしくは醤油のみを投入。
1枚1枚手作業で素早く仕上げていく。
鳥津さんが1枚ずつ手で成型したものを父がゆっくりと菜種油の中に浮かべていく。
右から鳥津康孝さん、妻・晴美さん、母・君子さん、父・良雄さん
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鳥津さんのじゃこ天(塩・醤油)
鳥津さんのじゃこ天(塩)
鳥津さんのじゃこ天(醤油)
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