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「味噌は生き物。麹と会話して、どうして欲しいのかを考えてやるんです。」
<まぼろしの味噌 とっておき>
熊本県菊陽町
永田 富浩さん
良い味噌を作ることだけを考える
 全国で唯一と言われる”味噌の神様”を祭った神社がある熊本に、 味噌名人と賞される人がいる。味噌・醤油の醸造に携ること50年以上、現在も現役で生産部長を務め、自らも工場で汗を流している永田富浩さんだ。昭和の敗戦直後、食糧を闇で手に入れるような物資に乏しい時代に永田さんと味噌との付き合いがはじまった。

 入社当時の社長であった故・山内忠次郎氏との出会いがその後の人生に大きな影響を与えた。忠次郎氏は物さえ作れば何でも売れる時代にあって、商品の品質を最優先する人だったという。「原価を上げてでも、とにかく良い味噌を作ってくれ。」忠次郎氏は事あるごとに永田さんにそう指示した。先を見越す目をお持ちの方だった、と当時を振り返る。
味噌は我が子 目をつぶって触っただけでわかる
 味噌作りを手がけはじめてすぐに、味噌は非常に繊細な生き物だということを知った。人間がどんなに手を加えたくても、味噌の出来の良し悪しは、麹菌の働き如何にかかっているからだという。その麹菌に最適の条件を与えてあげるのが、永田さんの仕事だ。忠次郎氏の言葉に後押しされて、いろんな冒険をしたと笑う。

 大豆ひとつとってもその種類の選定と選別、浸水時間、水を変える回数とタイミング、蒸し時間、火の加減から冷し方に至るまで、味噌を作る際にはひとつの工程について幾度となく試作を繰り返し、満足が出来るものが完成するまでその研究の手を休めることがなかった。麹室の中に火鉢を持ち込んだはいいが、温度が上がりすぎてしまったり、天気予報を信じて天窓を開けて帰ったら、翌朝、麹室が冷えてしまい材料は台無しだった、などのエピソードは数え切れない。

 これまでに永田さんが手がけた味噌は100種類を上回るが、目をつぶって味噌を触っただけで、それがどの味噌なのかがわかるという。オートメーション化が進んだ今では、一昔前ほど気は使わないで済むが、それでも微妙な調整はどんな味噌を作るときにも必要だ。永田さんにとって味噌はまさに我が子。自分の子供や孫であれば、目隠しをしていても声を聞いただけですぐにわかるのと同じなのだろう。
「いつもの味」でありつづけるために
 味噌は杜氏の経験や勘が出来を大きく左右することが多いという。どちらかというと家業的な色合いがある。しかし、永田さんはそれを良しと考えなかった。自分たちが作る味噌に慣れ親しんでいるお客さまに、できる限り同じ味を届けたいからだ。味噌汁は朝ご飯の顔。「いつもの味」でありつづけるためには、杜氏の経験を生かしながらも合理的、科学的で緻密な知識が必要だと感じたのだ。

 工場の脇にある小さな研究所を設けてもらったのは、味噌作りを始めて数年経った頃だった。年代物の計量器と最新式の色調検査器が並ぶ研究所には、今日も違った大豆や麦が持ち込まれ、色の良し悪しや製麦具合まで永田さんの厳しい眼差しを受けている。
そして冒険は続く
全国の味噌蔵が味噌を持ち寄って、年に一度開かれている品評会には、当初から必ず出品するようにしている。自己満足に終始せず他人が認めてくれる商品作り、それが長年変わらない信条だからだ。ひとつの品評会に出品される味噌は500〜600品。その予選を含めると相当な数が全国各地から集められることになる。

 永田さんが生みだした味噌は、初出品した当時から味噌に精通した審査員の評価を最も集めることとなった。受賞した回数は数えきれない。だが、2001年の品評会では受賞を逃してしまった。「いやぁ、麹を蒸す時間をわざと延ばして作ってみたんだけど、それが良くなかったんだね。香りがダメだった」と一笑した。まだまだ、冒険は続いているようだ。
立ちどまらず 麹との会話を続ける
 忠次郎氏のもとで味噌作りを始めてから半世紀、平成7年度には労働省が伝統工芸などの分野で優れた技能を持つものに与える「現代の名工」に選ばれ、平成11年には黄綬褒章を受章した。農林水産省からはフードマイスターの称号を受賞した。現在は忠次郎氏のひ孫にあたる彰雄氏のもと、いまも現役として味噌の仕込みに立ち会っている。
〈取材・文 猪口由美〉
山内本店の敷地内にある味噌・醤油資料館。中には創業 当時に使わていた桶や櫂が展示されている。
手で触れただけでどの味噌か分かってしまう。永田さんにとって味噌はさに我が子。
フラスコや天秤が並ぶ研究所。材料の良し悪しや旨みの測定をおこなっている。
工場では味噌だけでなく、醤油の醸造責任者でもある。
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まぼろしの味噌とっておきAセット
まぼろしの味噌とっておきBセット
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