 |
 |
| 塩をつくる。それも、加熱や精製といった加工を一切行わず、太陽の熱と風のみで海水から塩を採る。夏はざっくりと荒々しく輝き、力強い辛さを誇るが、冬になるとおだやかで独特の人懐っこい甘さが強調される。この、四季によって表情が変わる活きた塩に魅せられて、土佐に移り住んだ夫婦がいる。 |
 |
 |
 |
自然の中に身をおいて自分たちらしい生き方がしたい。それが吉田猛・かずみ夫妻のかねてからの希望だった。アスファルトの上を歩くより、周りに山や海があって季節を肌で感じとることのできる環境を探していた吉田夫妻にとって、たまたま参加した天日塩づくりとの出会いは、まさに人生の大きな転機となった。
青く広がる海から汲み上げた海水を、ヨットの帆のように空に向けて張った布に還流させ、太陽熱と風の力で海水より5〜6倍濃いかん水にする。その後は天日の力できれいな結晶が生まれるまで、ハウスの中で毎日撹拌をくり返しながら待つ。
この塩づくりに触れたとき、猛さんは直感的に「これだ!」と思った。数ヵ月後、三歳になる息子を連れて住み慣れた大阪を後にする吉田夫妻には、期待こそあれ不思議と不安は感じなかったという。「等身大で生きていけるのが何よりの幸せ」。この基本姿勢は今でも変わってはいない。 |
 |
 |
 |
今でこそ、多種多様の塩が店頭に所狭しと並んでいるが、吉田さんが天日塩づくりを始めた約17年前は、専売公社以外の会社や個人が塩をつくることは許可されていなかった。ただし特例として、公社が許可したごく一部の生産者のみが塩の試験的製造を行なうことができた。
つくった塩は全国から募った会員に配布し、代金は会費という形で支払われた。予想されていたことだったが、当初は塩のみで生計を立てていくのは大変だった。製造が思うようにいかず申し込みから届くまで一年がかりということも多くあった。それでも身体に良い塩をつくるということに対して、理解を示してくれた会員は数百名から数千人を超えるようになった。その力強い後押しと苦労を苦労と感じない前向きさが、この夫妻に共通した強さなのだろう。 |
 |
 |
 |
完全天日塩づくりは、自然が相手の仕事なだけに融通がきかない。夏の暑いときには木枠に収められたかん水のあちらこちらから結晶化が始まってくるため、早朝5時過ぎから全ての木枠を廻り、ヘラでかん水をかき混ぜる。海水に含まれているミネラルは成分によって結晶化する温度が違うため、完成したときに偏ったミネラルの塩をつくらないようにするためだ。
逆に寒い冬は気が遠くなるほど、結晶が顔をみせてくれない。夏の暑い時期は2〜3週間でできるものが、冬になると3ヶ月もかかってしまうのだ。季節によって粒の大きさも味わいも微妙に変わる。夏は短い時間で完成するため辛さが強調され、冬は比較的おだやかな辛さとなる。
しかし、ふと立ち返って考えてみると、汗をかく時期に強く、寒い時期に控えめな辛さになるというのは、まさに自然の利にかなったことではないだろうか。それこそが天日塩の持ち味なのだ。等身大の吉田夫妻が生み出す天日塩は、土佐の海の表情をそのまま私達に届けてくれているようだ。 |
 |
|
 |
 |
 |
| 空に向かって張った布に海水を還流させることで濃い“かん水”となる。 |
 |
 |
 |
| 透明度が高く、人の手が加わっていない海から海水を引く。時折、遠くにホエールウォッチングの船も見えるという。 |
 |
 |
 |
| 徐々に結晶を作り始めたら、ヘラを使ってこまめにかき混ぜなければいけない。 |
 |
 |
 |
| 最後に残った水分を飛ばし、あとは袋詰めをするだけ。 |
 |
 |
 |
| 吉田猛、かずみ夫妻。飾り気のない二人だからこそ、つくれる塩がある。 |
 |
|