東京から船で29時間かけて渡ってきた小笠原諸島・母島。
そこで出迎えてくれたのは、バケツをひっくり返したようなスコール。そしてわたしはずぶぬれ。
でもね、このスコールはきっと都会の疲れを洗い流してくれる「清め」の雨なのよ、吉兆なのよ。そう開き直るしかない。
小笠原では予想通り、持参したパソコンではメールを確認することが出来ず、携帯の電波もままならないからこの日は、宿に戻って夕食を食べ翌日の取材に備えて早めに就寝。
翌日。8時半に生産者と合流し、5分ほど車を走らせ現地に到着。
今回の小笠原出張の目的は、小笠原で作られているラム酒の取材。人口約450人が住む小さな島の中腹に建つ、ラム酒の工場は島同様とても小ぢんまりとしていて、設備もシンプル。
実際にラム酒の製造に携わっているのも、工場の責任者である小高さんというガタイのよい青年の一人だけというから こちらの方も、かなりシンプル。(^^ゞ
早速作り方を取材することになり、原料であるさとうきびの糖蜜タンクや蒸留機、製造方法などを順に説明してもらいました。
昔は、小笠原でもさとうきびの栽培は、比較的盛んだったそうです。
だけど、昭和の戦争で全島民が本州への疎開を余儀なくされ、帰島後には、すでに荒れ果てた土地に変貌して、やむなく離農する人が増え農家さんの絶対数の減少などで、栽培量が激減。
そんなバックグランドがあるため、この工場では小笠原産のさとうきびを原料にしたもののほか、外部から取り寄せた糖蜜を使用しています。
小笠原のラム酒の味はクセがなく飲みやすいなのですが、 実は、ここのラム酒を取材するにあたっては、国内で作られているラム酒を入手できる限り集めて、一斉に試飲をしたんです。
ひとことでラム酒といっても、こんなに味が違うのかと思ったほどそれぞれに個性があったのですが、この小笠原のラム酒は一番シンプルに感じたんですね。
それはおそらく、島で他のお酒を造っていないからなんじゃないかと思うんです。
焼酎が盛んな町のラム酒は、どことなく焼酎の空気感を感じたり泡盛を造る町のものは、やはり雰囲気に泡盛を感じたりしたんです。なかには、びっくりするくらいクセのあるものもあったりして、、、。
1本のラム酒を皆さんにご紹介するためにできるだけ多くのもののなかから、選ぶ方がいいに決まっているし
ラム酒だけじゃなくて、どの商品を紹介するときにもこの「比較検討」試食は、欠かせないんですね。
で、この小笠原のラム酒は、そのまま飲むのはもちろんですが、お菓子作りに使ったり、ジュースなどと混ぜて飲む場合に、とてもよいのではないかと思い、選びました。
一連の取材を終えたあと、小高さんが倉庫の奥から『もう残りは殆どないんですけど』と秘蔵のラム酒を飲ませてくれました。
数年間、蔵の中に静置しておいたラム酒は、とても丸くてふくよかなコクを含んだものになっていて、味わいも格別。
『ラム酒は蒸留酒なので、醸造酒と違って扱い易いですから自宅に数年間置いておくと、こうなりますよ』
おぉ、そうだよね〜。 確かにワインよりも扱いやすいんだもん。わたしも自宅で寝かせてみようっと!
と、そこに小笠原の父島の役所の方が通りかかりった。
小高さんに紹介してもらい、名刺交換すると『あぁ、今日の船で父島に行かれるんですか?じゃぁご一緒しましょう』と声をかけてくださり、さらに
『ラム酒のために遠くから来られたんですか?ご苦労様です。小笠原には他にもいいところが、父島で興味があるものがあればご案内しますよ』とのこと。
そうですか!それは心強い!実は一番興味があるのは、ホエールウォッチングなんですけどね。
えへへ。(*^^*)
『でもねぇ、いのくちさん。今日の船は覚悟しておいた方がいいですよ。』
「え?揺れるってことですか?」
『揺れるっていうもんじゃないと思いますよ。僕らの経験上、今日は並みじゃないはずですから、景色見ようなんて思わずにすぐに船底の座敷席を確保してくださいね。それからすぐに横になって、あ、足は船首に向けてくださいよ』
「は、はい。そんなにすごいんだぁ」
そこまで言われたら、賢者に従うしかない。乗船すると同時に、役所の人に連れられて船底に向かい、
毛布を敷き、横になるスペースをゲット。よし、これでばっちりよ。
でも、、、、。
そんなに揺れるもんかしら。見ない方がいいと言われてもめったにこれない小笠原の海なんだもん。眺めたいじゃないのよねぇ。
それに、母島と父島を結ぶこの船は、格好のホエールウォッチング船といわれているわけだし、、、と聞き分けのないわたしは船が出港してからも、船底の小さな窓にへばりつき外を眺め続けることに。
最初の10分くらいは、それでも船の揺れに身体をあわせてまるで自分がサーファーになったかのように「波乗り」を楽しんでしていたんだけど、でも役所の方から言われたとおり、この日の波は、シャレになってなかった。
ふと気づくと気分が悪くなっていて、グラッと揺れた瞬間、転がるように自分が敷いた毛布のうえにバタンと打ち付けられた。
さすがにそれからは、おとなしく寝転がったもののそのころには船はまるで、川に流されるはかない落ち葉のごとき状態に。
う〜、気分わるっ。
何度も、船がひっくり返るんじゃないかと思うほど横に傾き身体が浮き、船底にたたきつけられたことか。
最悪の事態を想定して、昼食は抜いていたからよかったものの胃はひっくりかえるわ、髪の毛は逆立つわ、散々な状態。約2時間半ほどの船旅を終え、陸に上がったあとも長いこと体が揺れているようで、フラフラ。
だけどあれだけ大変だったにも関わらず、わたしの頭をよぎるのは食べ物のことだけ。
「お昼、食べてない。気分は悪いけど、お腹も空いてる」
わたしの生活において、ご飯を抜くほどつらいことはないわけで、とりあえずどんなに体調が悪くても疲れていても、食べなくては気がすまない。それも、美味しくないと涙がでてくる。
ぼろ雑巾のように疲弊した身体を引きづりながら、それでも港の周りに並んでいる店を順番に覗いてまわり、息を切らしながら、少しでも美味しい勘が働く店に入ろうとする。
「お腹空いてるから、適当な店でいいやん」とは、どうしても思えない自分が、このときばかりはアホやと思いました。
そして選んだ1軒の店に入って、何を注文しようかと選んでいたところで、思わず「あるモノ」目に飛び込んできた!
あーっ。発見!! これ、おいしそ〜!
・・・つづく。